第3号:糖尿病ってどんな病気?
糖尿病とは、読んで字のごとく「尿に糖が出る病気」です。糖分は主に穀物(ごはん、めん、パン、芋類など)、果物に多く含まれています。
糖分は、身体が生命維持のために消費するエネルギー源として使われ、それによって皆さんは日々の活動を行っています。例えば、筋肉は、糖をエネルギー源として絶えず消費しています。また脳のように糖分しかエネルギー源にできない組織もあります。人間の体を自動車に例えると、糖はガソリンの役割をしていると言えます。
1)糖尿病の体では、どんなことが起こっているのか
糖尿病は、体内の糖が、うまくエネルギーに変われないまま、体の中に増えて、尿に出ていってしまう病気です。糖尿病では、糖分を適切に身体が消費できなくなる結果、血液中、尿中の糖分が高くなり、これが様々な内蔵を障害する原因となります。
糖尿病になってしまった体ではどのようにしてエネルギーがまかなわれているのでしょうか。糖が利用できなくなると代わりに、主に脂肪がエネルギーとして利用されます。つまり、糖尿病の方では、食べた物の糖分は利用できないので、代りに脂肪が利用されることになります。
2)糖尿病ではどのような症状が出るか
脂肪が消費される結果、体重が減っていきます。糖尿病は「食べても食べても体重が減ってしまう病気」です。また、糖と一緒に水分も出ていってしまうので、糖尿病になると、尿が多くなります。その結果、体の水分は足りなくなって、のどがとても乾きます。その上、身体のエネルギーがうまく利用されないので、だるくなります。
このような症状は、一般的にかなり糖尿病が悪くならないと現れません。逆に言うとこのような症状が出てきた時には、糖尿病がかなり悪くなっていると思われます。食べても食べても体重が減る、尿の回数が多くなった、喉が渇く、身体がだるいなどの症状がある方は、一度、当院を受診してください。
また、上記の症状がない方でも、糖尿病は遺伝的な要素が大きく血縁者が糖尿病の方も、糖尿病の可能性がある点に注意が必要です。幸いにも、糖尿病は無症状の時期でも、健康診断等の通常の検査で見つけることが可能で、採血、尿検査ですぐわかります。かくれ糖尿病という言い方がありますが、それは、まだ、糖尿病とはいえないけれど、糖尿病になってしまうかもしれない状態です。そう言われた方も、定期的に検査を受ける必要があります。決して放置しないでください。糖尿病は早期診断、早期治療がとても大事な病気なのです。
会社などの健康診断は必ず受け、もし異常があればやはり受診してください。主婦の方も家族健診、区の健診を利用してください。(詳しくは、区に問い合わせてください。)また若年性の糖尿病もありますので若い方も健康診断を定期的に受けることをお勧めします。
3)糖尿病を放置するとどうなるか;深刻な臓器障害を生じる
さて、もし糖尿病を放置しているとどうなるのでしょう?
実はそんな方が大勢いらっしゃいます。糖尿病の症状は、軽症の時は出にくく、つい検査や治療を軽視してしまうからです。また、常に血糖が高い状態が続くと糖尿病の症状に身体が慣れてしまう場合もあります。しかし通院を中断している間にも、種々の臓器の合併症が知らない間に進行してしまいます。
深刻な合併症の主たる原因は糖尿病による血管の障害です。私達の身体は、細い血管が頭の先から足の先まで、網の目のようにめぐらされています。それが集まって太い血管になるのですが、糖尿病の方では、細い血管が主に障害されます。糖分の代謝状態が悪いと、これらの血管が、傷つき、詰まり、切れ易くなります。その結果細い血管に富んだ組織(眼、腎臓、神経組織など)に障害が出現します。
例えば眼の内側には、網膜という薄い膜があり、その膜に細い血管が栄養を送っていますが、糖尿病でその細い血管が傷つきます。だんだん眼が見えなくなり、最悪の場合、失明してしまいます。また、腎臓は、いらない物を尿として外に出し、いるものをまた身体の中に取り入れる働き(濾過機能)があります。腎臓にも、細い血管がたくさんあるのですが、それが障害されると、腎臓の濾過機能が働かなくなり、本当は、体の中に取り入れなければならない蛋白質が身体の外に出て行ってしまいます。さらに腎臓の濾過機能が落ちると、いらないものを尿として外に出す能力も失われ、体内には老廃物がたまっていきます。この病状が進行すると、人工透析をしなければならなくなります。神経にも先端まで、栄養を送る細い血管が行っていますが、その血管が詰まると神経に栄養がいかなくなり、しびれや、痛み、感覚が鈍くなるなどの症状が起こります。進行すると感覚がなくなり、足に釘が刺さっても、やけどをしても痛くない状態になります。
以上、主に小血管の障害に起因する糖尿病の障害について書きましたが、実は糖尿病はその他にも種々の重大な障害を起こします。例えば糖尿病では体の免疫能力が低下し、感染症が悪化しやすいことが知られています。その典型的な例として下肢の糖尿病性壊疽があげられます。糖尿病の方は足にけがをすると、傷から細菌が入っても免疫力が働かないため、細菌の感染が進行してしまいます。その結果傷害部位の周囲が腐ってしまい、最悪の場合、足指、あるいは足そのものをを切断しなくてはならなくなります。また、糖尿病は動脈硬化の一大原因でもあります。脳梗塞、心筋梗塞、認知症などにも、糖尿病のある方はなり易いことが知られています(これらについては別項で解説したいと思います)。また、最近ではがんとの関連性を示唆するデータも示されています。
どうでしょう?このように糖尿病は、恐ろしい病気なのです。外来で糖尿病の方は「何ともないんですけど。」とよくおっしゃいます。でも、糖尿病を放置していると、大変な事になってしまうことはわかっていただけたかと思います。
残念ながら糖尿病は治らない病気です。でも、定期的に通院していただければ、健康な方と同じような生活が可能であり、食事、運動療法のみで、血糖コントロール良好な方も大勢いらっしゃいます。ぜひ、一緒にがんばりましょう。次回は、糖尿病の原因について書くつもりです。引き続き読んでくだされば幸いです。
近藤弓子 記