【心療内科】睡眠と心のストレス
心 のストレスが不眠をおこす事は良く知られています。しかし、心の不調がおこす睡眠障害は不眠だけではありません。実際には心と睡眠の関係はもっと複雑で す。心の病気は、疾患によって不眠といってもさまざまな特色を示しますし、時には正反対の過眠をきたす場合すらあります。そのため、心の問題によるとは気 づかれずにいる睡眠の乱れも多いと思われます。眠りの不調のパタンからある程度は心の病状も推測できます。
A. 睡眠障害の分類
睡眠の乱れは、その原因、内容とも実に多岐にわたります。原因としては、虫歯の痛みや時差ぼけによる不眠のように一過的なものから、脳梗塞後、認知症、 睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー、甲状腺機能の異常、薬物、うつ病や不安障害、適応障害などのさまざまな疾患が含まれます。
ここでは、まず大雑把に、睡眠障害を次のように分類してみます。
1)不眠;
a.眠りにつけない(入眠障害)
b.眠りが浅い(中間覚醒)
c.早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)
d.睡眠の欲求の消失;頭が冴える、眠りそのものを欲しない、など
2)過眠;
眠くて朝起きられない、いくら寝ても熟睡感がない、いくらでも寝ていられる、など
3)日中の眠気;
睡眠が取れているのに日中眠い、食後の眠気が強い、突発性に眠気が来る、など
B. 心の病気と不眠
不眠はうつ病、躁病、不安障害、双極障害など身近な心の病気の代表的な症状です。不眠といってもその内容は上記分類のようにさまざまですが、その実際と心の状態の注意深い観察から、ある程度病状を推測する事も可能です。
1) うつ病
早朝覚醒、中間覚醒がよく見られます。また、睡眠に関連して、起床時の気分の強い落ち込みを伴う事もうつ病でよくみられます。うつ病では一般に日中の気分の落ち込みが見られますが、気分の問題がほとんど自覚されずに不眠のみが自覚されている場合もあり、要注意です。
2) 不安障害
で は心の張りつめた状態が入眠障害、中間覚醒を来す場合が多いですが、早朝覚醒は比較的少ないと思います。うつ病で見られる睡眠リズムに合わせた気分の日内 変動(朝より夕方に気分が回復する、あるいはそれの逆)は原則見られません。日中は、不安な気分につきまとわれたり、過呼吸などのパニックを示したりさま ざまな特有の症状を示します。
3) 過剰な精神活動の亢進(躁状態)による場合
この場合は不眠は自覚上は苦痛ではありません。患者さん本人は逆に「寝るのが惜しい」ほどに集中したり楽しんだりする対象を持っています。従って医師の質問がなければ、病気とは気がつかずにすぎてしまう場合もあります。
C. 心の病気と過眠、日中の眠気
1) 最も多いのは夜間の不眠が日中に影響を及ぼしている場合で す。夜眠れないから昼ぼーっとしてしまう、ねむくなる、さらには寝てしまう(昼夜逆転)などです。これらの場合、問題の本質はむしろ夜間の「不眠」にある といえます。しかし、長年の不眠の集積が睡眠覚醒のリズムをかえてしまっている場合は不眠に対する対策だけではすまない場合もあります。その場合は、心療 内科的のみならず睡眠外来などによる時間生物学的診療も必要になる場合があります。
2) 過眠。夜間ある程度睡眠を取っているにも拘らず、朝起きたくても眠くて起きられない。いくら寝ても眠い。不眠とは逆の症状ですが、実はこれも精神的な失調でよく見られます。特異なうつ病(非定型うつ病)では不眠のリバウンドではなくて過剰に眠る傾向を示します。その場合起床時の強い身体的な疲労感(鉛様)や、過食、気分の0n-offなどが診断の目安になります。また、冬季うつなどの、季節性に出現するうつ病でも過眠がよくみられます。気分の大きな振幅が特徴である双極障害(躁うつ病)では気分が落ち込む時期(うつ状態)になると過眠が生じやすくなる場合があります。これらは、単純なうつ病で不眠が目立つのとは異なった傾向です。
D. 睡眠障害と心の病気
上記のように、睡眠の乱れは、背後に心療内科的な問題が潜んでいる可能性があります。 また、症状が睡眠障害だけで心の不調の自覚がない場合にも、実は背景に心理的な問題が隠れていることがある点も要注意です。それらの場合には、睡眠剤をい くら飲んでも眠りが改善せず、気力ややる気の問題にしてしまい解決が遅れている可能性があります。さまざまな睡眠障害が心の乱れから生じうる事、そのよう な場合の眠りの障害には心療内科的なアプローチが必要だという点に注意すべきです。 以下に主な注意点をあげます。
1) 眠れないからといって、睡眠薬を単純に処方、増量するのはよくありません。原因に対する治療が必要です。
2) 心の不調がある場合は、睡眠薬以前に使うべき薬があるかもしれません。場合によっては、坑うつ薬、気分安定剤、坑不安薬のような、日中の気分をコントロールする薬が必要な場合もあります。
3) また、不眠だけが心の問題と関わっているのではなく、逆の、過眠のような状態も密接に心の問題と関わっています。過眠や日中の眠気で困っている方も、心の問題に関する診療が必要になる場合があります。